モース硬度とは何なのか?
今回は、モース硬度について詳しく深掘りしていこうと思う。
19世紀初め頃、ドイツやオーストラリアで活躍した鉱物学者のフリードリッヒ・モースが、このモース硬度を考案した。
モース硬度とは、鉱物の硬さを数値で表す尺度の一つとして作られ、1~10のランクで硬度が区分されている。
モース硬度の決まり方
それではこの硬度のランクはどのように決定されていったのか。
モース硬度が作られた当時、鉱物と鉱物を擦り合わせることで、傷がついた側の鉱物の方がもう一方の鉱物に比べて柔らかいということを利用し、モース硬度のランクづけを行っていった。
これを鉱物の「引っかき傷のつきにくさ」として、10段階に区分して表し、最も硬いものを硬度10、最も柔らかいものを硬度1とした。
宝石の代表格であるダイヤモンドは、ものすごく硬いことで有名だが、その通り全ての宝石の中で唯一の最高硬度である硬度10に分類されている。
では、もし同じモース硬度の鉱物同士を擦り合わせた場合はどうなるのかというと、お互いの鉱物に傷がつくか、あるいは何も傷がつかないかのいずれかとなる。
【補足】モース硬度に対して勘違いしやすいこと
上でも説明したように、モース硬度とは引っかき傷のつきにくさを尺度としている。
鉱物の場合、耐久性に必要な要素として傷のつきにくさのほかに、「割れにくさ」も一つの要素となる。ただ、今回解説しているモース硬度は傷のつきにくさのみを含んで区分しているため、この「割れにくさ」はモース硬度とは無関係である。
そのため、モース硬度が高い、すなわち硬い鉱物だからといって、その鉱物が割れにくいということにはならないことには注意が必要である。
モース硬度のランク別標準鉱物
どの鉱物がどのランクの硬度なのかを測っていく上で、各ランクごとにその基準となる比較対象のものが必要となる。
ここで紹介するのは、その各ランクごとにその基準となる鉱物である。鉱物の業界では、それらの鉱物をまとめて「標準鉱物」と呼んでいる。
それでは、モース硬度のランク別に標準鉱物を紹介していく。
モース硬度10:ダイヤモンド(金剛石)
モース硬度10は、鉱物界で最も高い硬度を誇るランクである。
先ほども少し触れたが、ダイヤモンドがその標準鉱物として設定されており、しかも唯一ダイヤモンドがモース硬度10として君臨している。
その最高硬度ゆえに、ガラスを加工する機械や工業用のカッターの刃にもダイヤモンドが埋め込まれている。
モース硬度9:コランダム(鋼玉)
コランダムをもっと身近な鉱物で表すと、ルビーやサファイアのことである。
ここで早速、さっきの補足で解説したモース硬度で起こしやすい勘違いの部分を思い出しながら読み進めてほしい。
コランダムは、ダイヤモンドよりもワンランク低い高度になるのだが、ダイヤモンドに比べると劈開性を持たない。いきなり難しい単語が出てきたが、劈開性とは単純にいえば割れにくいという性質を言い表した言葉である。
ここでもう一度簡潔に言い直すならば、コランダムはダイヤモンドより硬度が低いが割れにくいということである。
コランダムのその他の特徴として、コランダム自体が物質として科学的に安定しているため、化学薬品に対する耐性があるという特性も持っている。
時計の軸受には合成ルビーが使用されていることが多いのだが、これも摩耗に強く硬度が高いという特性を生かした1つの良い例である。
ところで、ルビーとサファイアって同じ鉱物なの?!と思ったかもしれない。
ルビーとサファイアは色が真逆なものの、鉱物としては同じ石なのである。
ただモース硬度の話とは逸れてしまうので、ルビーとサファイアについては下記記事でも解説している。気になる人は覗いてみてほしい。
(ルビーとサファイア記事へのリンク)
モース硬度8:トパーズ(黄玉)
硬度としては十分に高いランク帯だが、衝撃に対する強度(靱性)が非常に弱い性質であるため、割れやすい。
宝石の中では、エメラルド、アクアマリンがこの硬度に相当する。
モース硬度7:クォーツ(石英・水晶)
この硬度までが宝石の中でも硬い宝石という部類に含まれる。
クォーツは色によって宝石としての名前が変わり、おそらくいくつかは聞いたことのある名前かもしれない。
それぞれ紫水晶(アメジスト)、黄水晶(シトリン)、紅水晶(ローズクォーツ)と呼ばれている。
色の他に、ルチル(金属線)が石の中に入った金針水晶(ルチルクォーツ)、大地の砂煙のような色合いをした煙水晶(スモーキークォーツ)のような種類もあり、クォーツにはいろいろな種類が存在する。
クォーツに関しては、下記記事でも詳しく取り上げているので興味のある人は参照してほしい。
(クォーツの記事へのリンク)
身近なものとして、人間の歯のエナメル質が硬度7に相当する。歯のエナメル質は、人間が持つ体の部位の中で最も硬度の高い部位である。
モース硬度6:オーソクレース(正長石)
他の宝石と異なり、有機物からできているため乾燥に弱いという特性を持っている。
身近な例としては、ナイフの刃がこの硬度にあたるため、カッター等の刃物をこの硬度の鉱物に当てて擦ると傷がつくことがあるという指標の硬度になる。
宝石としては、オパールがこの硬度になる。
モース硬度5:アパタイト(燐灰石)
この硬度の身近な代表例として、窓に使われるガラスがそれにあたる。この硬度の鉱物を窓ガラスに擦り付けたときに、ギリギリ傷をつけない程度の硬さに相当する。
ただし、ガラスに関しては少し注意する必要がある。下記記事にて詳しく掘り下げて解説しているので、気になる方はぜひこちらも覗いてみてほしい。
(ガラスの記事へのリンク)
モース硬度4:フローライト(蛍石)
ガラスやナイフの刃、鉄釘よりも低い硬度である。
つまり、それだけ日常の扱いで傷がつきやすく、取り扱いに注意する必要の出てくる硬度になってくる。
また、フローライトは劈開性もあるため割れやすい。
身近なもので言えば純鉄がこの硬度に相当し、宝石の中では真珠がこの硬度に該当する。
モース硬度3:カルサイト(方解石)
方解石と聞くと聞きなじみがないかもしれないが、大理石と言えばイメージがつきやすいのではないだろうか。方解石の成分は炭酸カルシウムで、加工もしやすい。
10円玉のような効果で擦ると傷がつき始める硬度にあたる。
劈開性もあり割れやすいため、この硬度まで落ちてくるとアクセサリーとして身につけるにはあまり適していない。
身近なものの例としては、珊瑚礁の珊瑚がこの硬度である。
モース硬度2:ジプサム(石膏)
石膏は骨折した時に使うギプスや像にも使われているので、他の標準鉱石に比べたらかなり身近ではないだろうか。
10円玉や人の爪で傷がつき始める硬度になる。
ちなみに人の爪は硬度2.5程度である。
身近な例としては、岩塩や純金がこの硬度にあたる。
ここで余談だが、ふと鋭い人はこんな疑問を抱くかもしれない。
さっき硬度3でアクセサリーには向いていない硬度であると言っていたのに、硬度2の金はアクセサリーにもたくさん使われている、、どういうことだ、、?
ここで金の言い方に少し着目してほしい。最初に身近な例の紹介では金のことを「純金」と呼び、その後の疑問では「金」とあえて呼び方を変えていたのに気づいただろうか。
どういうことかというと、純金というのは金が100%のものを指していて、アクセサリーで主に使用されている金にはニッケルや銅などが混ぜられており、いわゆる合金となっている。合金にすることで堅牢性を高め、アクセサリーとして普段使いしやすいように純金の柔らかさをカバーしているのである。
金は一見すると頑丈そうに見えるが、純金は実は鉄よりもかなり柔らかい金属なのである。
モース硬度1:タルク(滑石)
こちらも硬度3の方解石と同様に、滑石というと聞き慣れないかもしれないが、身近な言い方で呼ぶと小学校のグラウンドに線を引いたりする時に使うチョークである。
非常に柔らかい硬度のため、工業利用や化粧品に使われていたりする。
まとめ
まずは簡単に、この記事で登場した硬度別の身近な例と宝石の例を下記にまとめる。
硬度 | 身近な例 | 宝石例 |
10 | ・ガラスを加工する機械 ・工業用のカッターの刃 | ダイヤモンド(のみ) |
9 | 時計の軸受 | ルビー、サファイア |
8 | ー | エメラルド、アクアマリン |
7 | 人間の歯のエナメル質 | |
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モース硬度と聞くとすごく学問的で取っ付きづらいが、ひとつひとつ細かく見ていくと、ルビーとサファイヤは実は同じ鉱物だとか、純金は実は結構柔らかいとか、鉱物に関してちょっと意外な一面を知ることもできる。
特にガラスとか爪とかより身近なものに例えていくと、よりモース硬度が身近なものに感じることもできるのではないだろうか。
宝石を語る上でも、宝石の一大要素になる「頑丈さ」の大事な指標にもなるので、ぜひモース硬度は前提知識として覚えておこう。
実は、サラッと硬度2のところで取り上げていたが、人の爪の硬度が2.5であるというように、今回紹介したモース硬度をさらに詳細に区分した「修正モース硬度」というのも存在する。
かなり記事も長くなったので、修正モース硬度に関しては下記記事で解説しているので、こちらでさらにモース硬度に関しての知識を深めてほしい。
(修正モース硬度の記事へのリンク)
また、モース硬度の他に、「ビッカース硬度」というものがあり、こちらもまた別の記事で取り上げているので、ぜひ下記リンクから予備知識として覗いてみてほしい。
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