「宝石」と定義づけられる要素
アメリカにある宝石業界の組織であるGIA(米国宝石学会)によれば、下記の5つの要素を全て満たしている石に対して、「宝石」と定義づけている。
- 鉱物または有機物である
- 装身具として使われている
- 美しい
- 希少性が高い
- 耐久性がある
上記5つの要素のうち、下の赤い太字で書いてある3つの要素は特に重要で、「宝石」を定義する上で必ず揃っている必要がある。
この3つの要素のうち一つでも欠けていると、「宝石」として認められなくなる。
それでは、これら3つの要素を深掘りしていこう。
要素1つ目 :「美しい」
宝石といえば、透き通っていてキラキラと光り輝く綺麗な石、というイメージがある。
「美しさ」とはまさにこのイメージ通り、具体的には「色」「透明度」「光沢」のようなものが「美しさ」を決める判断基準の要素となっている。
「美しさ」を評価していく基準はいくつかあるのだが、大きく分けると、
- ダイヤモンド → 「4C」
- それ以外の色のついた宝石 → 種類や産地、色付け処理が行われているか、etc…
の2つに分けられる。
4Cについては、下記ページにて解説している。
(「4C」解説ページのリンク)
「色」を例にとって「美しさ」を評価してみると、
ほとんどの宝石に対して、色の濃いものほど高い価値を持つとされている。
一部の宝石に対しては、色の判別のツールとして「クオリティスケール」というものを製作して、それを使用することで価値を判定している。
ただし、「色」は当然、人によって赤色が好きとか緑色が好きというように好みの色が異なることが多いため、一概にこの色が絶対的に価値が高いから人気があるとは言い切れない。
要素2つ目:「希少性」
簡単に言えば、宝石はなかなか採れないし数が少ないから価値がある。この数の少なさを「希少性」と呼んでいる。
しかし実際のところ、数が少ないというのは少しばかりニュアンス的な表現で、人によって感覚も異なるためやや曖昧である。
では具体的に「数が少ない」とはどういう意味なのか。それには下記3つの観点がある。
- 地質学的(Geological)
- 市場(Marketplace)
- 比較(Comparative)
ここで、「市場」が希少性という要素に影響する例を示す。
まず宝石と言われると何を想像するだろうか?
そう、ダイヤモンドである。
宝石と言われれば真っ先にダイヤモンドが出てくるのではないだろうか。結婚指輪でも定番となっており、無色透明にキラキラ輝く高価な宝石の代表格である。その綺麗さと高価さゆえに、ダイヤモンドはなかなか採ることのできない希少な宝石だと思うのかもしれない。
だが実際はその真逆で、南アフリカ創業の採掘会社「デビアス社」によって、ダイヤモンドは大量に採掘されている。
では、なぜその大量にあるダイヤモンドが希少性を認められて高い価値を保てているのか。
それは、デビアス社が供給過多によるダイヤモンドの価値の低下を防ぐため、市場への流通量をあえて少なくなるようにコントロールしているからである。
どんなに大量にものがあっても、それを誰かが独占していたりお店でなかなか買えないとなれば、欲しい買いたいという需要が供給を圧倒的に上回って、結果として価値が上がりそれが希少性へとつながっていくのである。
このように、ダイヤモンド市場は一例に過ぎないが、採掘量が多くても「市場」的な観点から希少性があると認められることもある。
希少性に関する例外的な例は、下記のページでも深掘りして解説している。
(希少性のページのリンク)
要素3つ目:「耐久性」
耐久性とは、主に傷がつきにくくて割れにくいことを意味している。
先ほども少しダイヤモンドの時に触れたが、宝石には資産的に持っている人もいるが、主には指輪やネックレスのようなアクセサリーとして、人々が日常的に身につける形で利用されている。
当然身につけていると、何かにぶつけてしまったり擦ってしまったり、または落としてしまったりすることもあり得る。宝石自体がもし脆かった場合は簡単に壊れてしまい、実用性がなくなってしまう。
そのため、耐久性があるということは、宝石として重要な要素となるのである。
また人によっては、家族間で宝石を大々受け継いでいくということもあるため、時間の経過による経年劣化をしないということも、耐久性の大事な要素の一つとなる。
耐久性の3つの指標
耐久性は次の3つの指標で測ることができる。
- 硬度(傷のつきにくさ)
- 靱性(堅牢性・割れにくさ)
- 安定性(物理的・化学的な影響の受けにくさ)
硬度については、「モース硬度」という数値的な指標があり、下記にて詳しく解説している。
(モース硬度の知識へのリンク)
その他の2つの指標については、さらに細かく分けられる。
靱性(堅牢性・割れにくさ)
靱性とは、簡潔に割れにくさのことであるが、割れ方には2つの種類がある。
- フラクチャー
- クリーヘッジ(劈開)
の2つである。
フラクチャーとは、変則的で方向性のない破損、つまり規則性もなくバラバラに割れる破損のことで、
クリーヘッジとは、ある一定の結晶構造に沿って裂けるように割れる破損のことである。少々聞きなれない難しい単語ではあるが、日本語では「劈開」と呼ばれる。
安定性(物理的・化学的な影響の受けにくさ)
安定性というのは、宝石が外部からなんらかの影響を与えられた時に、どれだけ状態が変わらずに保っていられるかどうかを表している。
主に2つの安定性に分けられる。
- 物理的安定性
- 化学的安定性
物理的安定性とは、圧縮や引っ張りのような物理的な力による変形が起きないということで、より物理的な表現で言うと、展性や延性がないということである。展性が圧縮による変形能力、延性が引っ張りによる変形能力を意味する。
化学的安定性とは、ある特定の化学物質や温度の変化のような化学的なものによる組成変化がしにくいことである。
まとめ
世間で宝石といえば、綺麗で貴重で高価な石というイメージがあるが、宝石として認められるにもきちんとした絶対的な要素があり、宝石を定義するだけでもこれだけたくさんの知識や奥深さがあることがわかった。
宝石の定義を深く知っていこうとすると、これまで学校で習った物理や化学の知識がここでも生きてくるんだなと、私も初めて実感することになった。
魅力的な煌びやかさだけでなく知的好奇心をくすぐるような奥深い宝石の世界に、足を一歩踏み入れたような、そんな感覚である。
ぜひ宝石の見た目以外の魅力も、学んではここに書き残して広めていけたらと思っている。
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